2014年7月6日日曜日

新サービス「まつばら電子図書館」を使ってみました

7月1日から鳴り物入りでスタートした、まつばら電子図書館。
「パソコンやタブレット端末などを使い、いつでもどこでも電子書籍を借りて読むことができる」…との触れ込みですが、その中身や使い勝手はあまりにもお粗末で、「なぜ突然、こんなサービスに予算を?」と思わずにいられません。

まつばら電子図書館

この記事では、中身がどれだけイマイチなのか、またサービス導入に至る経緯がどれだけ不可解か、について書いていきます。



じわじわと普及が進んでいる電子書籍ですが、いくら便利でも中身が充実していないと台無しですよね。
「まつばら電子図書館」のスタート時点でのラインナップは3377点、その内訳をジャンルごとに分けるとこんな感じです。

・お役立ち文庫 3000点
住宅・不動産(529) マネー(613) 健康・医療(232) ビューティ(87) オーディオ・ビジュアル(1) カメラ(2) 携帯電話・スマートフォン(29) インターネット・パソコン活用(14) レシピ(11) 家事・ライフスタイル(181) 冠婚葬祭・マナー(8) 生活家電(6) 妊娠・出産(37) 育児(107) 恋愛(114) 結婚(34) 就職・転職(28) スキルアップ(44) 起業・経営(21) 社会(9) 学習・受験(4) 車・バイク(141) 海外旅行(484) 国内旅行(182) ペット(3) エンタメ(79)

・電子書籍 377点
総記(3) 哲学(12) 歴史(9) 社会科学(31) 自然科学(14) 技術・工学・工業(5) 産業(2) 芸術・美術(4) 言語(8) 文学(288) 児童(1)

この中には、ニーズが高い雑誌や新聞、予約ベストテンに入るような最新の文芸書、松原市民図書館では蔵書約45万冊(平成24年度)の3分の1を占めている絵本、日本の電子書籍市場で売り上げの大半を占めているマンガ存在しません
電子書籍サービスがはじまったということで、「人気のある本でも予約待ちしなくていいのかな…」「絵本や図鑑など、大きなサイズの本も気軽にたくさん借りられる!」と勘違いしてしまった方、残念でした…。

さらに言いますと、電子書籍ならではの動画・音声を含んだもの、郷土資料といった松原市独自のコンテンツも今のところ用意されていません。それなりに予算や手間がかかってくる部分でもあるので、今後に期待と言いたいところですが、どうでしょうかねえ。



さらに掘り下げて、ラインナップの大多数を占めるお役立ち文庫について調べてみます。くわしくは以下のニュースリリースをごらんください。

オールアバウトの電子書籍3,000タイトルをDNPの電子図書館サービスで提供|DNP 大日本印刷株式会社

要約すると、ネットに載せている生活情報の記事を再編集した電子書籍もどき3000点を、電子図書館のシステムと抱き合わせで用意しましたということです。

そこで、試しにお役立ち文庫の「初心者にオススメのデジカメガイド」( →LINK)という本を借りてみました。表紙と目次はこんな感じです。



なにこのやっつけ仕事な表紙…」「5年前のデジカメをお勧めされても…」と困惑してしまいますが、気を取り直して、見出しのタイトルをネット検索してみると…なんとあっさりネット上にある記事が読めてしまいました。この電子書籍(?)、わざわざ借りる意味あるんでしょうか?

2009年冬、おすすめのデジタルビデオカメラ [デジタルビデオカメラ] All About
カシオ EX-ZR300 実写画像 [デジタルカメラ] All About
ペンタックス PENTAX Q 実写画像 [デジタル一眼カメラ] All About
2012年上半期デジタル一眼入門者におすすめのレンズ5 [デジタル一眼カメラ] All About

しかも、この電子書籍版には画像が埋め込まれていないので、いちいちリンクをクリックして画像を開いていく必要があります。
また、このタイトルだけかもしれませんが、「リンクが切れていて表示できないものがある」「デジカメの実写画像と言いながら、小さいサイズの画像しか見られない」といった問題も見つかりました…。

このように、理解に苦しむ部分が多いAll Aboutの電子書籍ですが、こんな本でも225円で販売( →LINK)されていたり、ネット上でこういった指摘がされていることも紹介しておきます。

All Aboutが1ヶ月で6500冊の電子書籍を投入してきてるのってどうなのよ? | 電明書房(archive)
All Aboutによる電子書籍大量投入のその後 | 電明書房(archive)



つづいて、お役立ち文庫以外の電子書籍377点についても調べてみましょう。

このうち303点は、著作権の切れたコンテンツを電子書籍化しているデジタル書店「グーテンベルク21」( →LINK)のタイトルで、海外の古典文学が中心となっています。
ただ、これって無料で読める「青空文庫」( →LINKと重複しているタイトルが多いんですよね…。

また、残りの74点のほとんどは「法研」「すばる舎」などが発行している実用書で、これも内容的にお役立ち文庫と重複しちゃってるような…。
あと、気になるのはそのうち73点が「フィックス」タイプの電子書籍であること。



イラストで説明すると上のような違いがありまして、特にディスプレイが小さい携帯端末の場合は「リフロー」タイプでないと読みづらいんですよね。「フィックス」だと画面を上下左右にスクロールしないと全体が読めないのに対して、「リフロー」だと上下の動きだけで済みますから。
これも図版が多い本であれば仕方がないんですが、文字が中心っぽい本であっても同じ仕様になっていて、これでは電子書籍の魅力・利点が薄れてしまうように感じました。



ラインナップの問題の他に、実際に使ってみると電子図書館のシステム自体にも不満を感じました。

まず、一般的な電子書籍と、今回導入された電子図書館では、本のデータを読み込む方法や読書ツールに大きな違いがあります。イラストで説明するとこんな感じです。



いわゆるクラウド型の電子図書館システムでは…

・データをダウンロードしないので、端末の残り容量を気にしなくていい
・読書用のソフト/アプリをインストールする必要がない

という利点はたしかにあるのですが、常にインターネットに接続できる環境でないと読書すら出来ないというのは大きなデメリットではないでしょうか。
たとえば、インターネット接続には無線LANが必須のタブレット端末(Wi-Fiモデル)の場合、「自宅の無線LANで電子書籍をダウンロードしておいて、移動中に読書をする」という使い方は一般的かと思うのですが、この電子図書館システムだとそれは不可能です。
図書館に足を運ばなくてもいいのは確かだけど、これでは「いつでもどこでも電子書籍を借りて読むことができる」とは言えないですよねえ。

また、この辺はいずれ改善されると思いますが、iPhoneのsafariを使って電子図書館のサイトに接続していると、かなりひんぱんに利用者IDとパスワードの再入力を求められるので、非常に使い勝手が悪いです。
さまざまな端末に合わせたソフト/アプリを開発・サポートしなくていい分、ブラウザで読書をさせるのは安上がりなのかなーと想像するのですが、この仕様はちょっとムリがあるんじゃないでしょうか…。

参考までに、この電子図書館サービスの営業資料サイトを紹介しておきます。

電子図書館サービスTRC-DL

それにしても…。
存在意義が薄いように感じられる「お役立ち文庫」のようなものでも、インターネットが使えない、環境を整える余裕がない人にとってはそれなりの価値があるかもしれない、とは思うんです。
でも、現時点ではそういった「これまでインターネットや電子書籍に触れたことのない層」にアプローチできるシステムではありませんし、常時ネット接続ありきのサービスなのに、ネットがあれば無料で誰でも読めるコンテンツが9割以上って、ちょっとひどくないですかね。



ここで、「なぜ突然、こんなサービスに予算を?」という最初の疑問に戻ります。

現在、松原市民図書館では以下の答申に基づいて「7つある分館の機能縮小」「プラネタリウムの廃止」が進められようとしています。

図書館の適正配置及び規模、ならびに市民サービスの充実などについて(答申)

そんな状況下ですから、当然このように考えざるをえないわけです。

電子書籍サービスは「分館廃止」のため?  「近いイコールいい図書館だとは思っていない」と分館全面否定の澤井松原市長: 明日の松原市民図書館を考える会

また、市長のブログ( →LINK)(というか、これブログとは言えないですよね…)の「いつでも どこでも 好きなときに読書を(2014.6.30)」という項には

大阪府下では大阪市・堺市に次いで3番目

という記述があり、結局はこれを言いたかっただけなんじゃないかという説もあります。

「突然」という点でいいますと、先ほど紹介した答申(平成25年5月)でも、平成23年2月に図書館協議会から提出された答申「これからの松原市民図書館のあり方について」( →LINK)でも、電子書籍の貸し出しなんて一言も出てきていません
むしろ、IT方面に力を入れるなら、23年の答申でも指摘されているように、インターネット予約などのシステム整備がどう考えても先でしょう。

平成26年度の予算で図書購入費が65万円もカットされた一方、こんな事情で、こんなサービスに500万円も使われるんだから、市民としてはたまったもんじゃありません…(画像は広報まつばら4月号より)。





効果がまったく実感できない「セーフコミュニティー」といい、あやしい自治体運営型通販サイト「JAPAN SG」(*まだ未契約)といい、今回の「電子図書館」といい、厳しい財政状況が…とか言いながら予算さえ出せばお手軽に実績(もどき)が作れる事業にホイホイお金を出してしまう残念な自治体がこの松原市です。
これからもおかしな事業の中身をしっかりチェックしていきますので、多くの方にこういった現実を知っていただきたいと思います。

1 件のコメント :

  1. 松原に嫁にきて18年住んでいます。
    図書館で電子書籍サービスのチラシを見かけて、検索してたどりつきました。
    去年からあったんですね。

    そして、いまいちメリットがなさそうなこともわかりました。
    おっしゃるようにネット予約できる方がかなりありがたいと思います。

    市民病院がなくなってからどうなっていくのかと不安の多い市政です。
    さかのぼっていろいろ読ませてもらいます。


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